塗装不良の種類と対策を徹底解説|原因・検査基準・数値化と判定の新常識とは?
塗装不良を抑制できるかどうかが、製品や建築物の品質を大きく左右します。ゴミブツやピンホール、色ムラなど、さまざまな塗装不良に悩まされ、手直しや再塗装に多くのコストと時間がかかっている製造現場は多いものです。不良の判定基準の曖昧さや検査の属人化によって合否判断がばらつくと、品質管理やクレーム対応にも悪影響を与えかねません。本記事では、塗装不良の種類や発生原因を踏まえ、不良の判定が現場で難しい理由と標準化が進まない理由を解説します。また、塗装不良によくある課題の解決策についても紹介します。
塗装不良、その手直しコストと時間に悩んでいませんか?
塗装不良の検査基準が曖昧だと、「これはゴミか?キズか?」「どこまで手直しすべきか?」「OKかNGかを誰がどうやって決めるのか?」といった問題が起こります。属人的な検査プロセスが原因で、熟練検査者と新人との間で判定が異なったり、「念のため」の手直しや再加工が頻発したりする現場も少なくありません。その結果、歩留まりが安定せず、人件費や材料ロスといったコスト増、手直し時間の捻出に頭を悩ませているのではないでしょうか。
さらに、検査者の経験や健康状態、現場の照明環境などに判定結果が左右されることで、検査サイクルの安定性が失われやすくなります。検査基準や照明条件が明確でない現場では、不良の見逃しや誤判定による品質リスクの拡大が避けられません。
こうした状況を放置すると、現場の負担が増すだけでなく、品質管理やクレーム対応にも支障をきたします。したがって、手直しコストや時間の無駄を削減し、検査の可視化・標準化を進めることが、多くの現場における喫緊の課題です。
よくある塗装不良の種類と発生原因・タイミング
| 不良名 | 発生原因 | タイミング |
| ゴミブツ | 異物(塵・衣類繊維など) | 塗装中~乾燥後 |
| ピンホール | 湿気、エア | 乾燥時 |
| 色ムラ | 塗布ムラ、膜厚不均一、攪拌不足 | 吹付け時~乾燥後 |
| ブリスター | シリコン、油分、水分 | 塗布直後 |
| ハジキ | 油分、水分(前処理ミス) | 塗布直後~乾燥初期 |
ゴミブツ(ブツ)
空中を浮遊している塵埃や衣類の繊維などの塗装面への付着が主な発生原因です。発生タイミングは塗装前・中および乾燥前で、ブース内や乾燥炉から落ちた異物が塗膜に埋まります。塗料のフィルタリング強化、ブースやラインの清掃、被塗物の事前エアブローといった防止策が挙げられます。
ピンホール
湿気の混入や塗料内のエア残留による小さな気泡が破裂することで発生します。発生タイミングは乾燥時がほとんどで、塗膜表面に針で開けたような微細な穴が形成されます。対策としては、粘度の調整やセッティングの延長、霧化エア圧の最適化、攪拌後の脱泡処理が効果的です。
色ムラ
塗布ムラや膜厚の不均一、シンナーや顔料の攪拌不足、乾燥条件のばらつきによって起こります。特に吹付け時から乾燥後に発生し、色の濃淡や斑(まだら)が表面に現れます。色ムラの抑制には、十分な攪拌や膜厚制御、霧化圧力調整、乾燥温度の最適化、湿度管理が有効です。
ブリスター
塗料や被塗物に含まれる気泡が乾燥過程で破裂し、その跡が円形のくぼみとして残る現象です。主な原因には、スプレー塗装時の空気の巻き込み、塗料の攪拌や圧送時に発生した泡、多孔質な素材からの空気の放出などがあります。対策するには、適切なスプレー条件の設定、攪拌後の十分な脱泡、シーラーなどによる下地の目止め処理を行います。
ハジキ
被塗物表面に油分やシリコンなどの汚染物質(低表面張力物質)が付着し、塗料が弾かれることで発生します。塗膜が汚染物質を避けるように形成されるため、中心に原因物質の核を持つ「魚の目(フィッシュアイ)」のような円形のくぼみや、下地が露出した穴になります。対策としては、塗装前の脱脂・清浄の徹底、塗装環境の清浄化、コンプレッサーエアの管理が重要です。
※クレーターとハジキをまとめて「へこみ」に分類する場合もあります。
不良の判定が現場で難しい理由
製造現場では、塗装不良の目視判定に「ドットゲージ」が広く使われていますが、ここに大きな問題点があります。
ドットゲージは透明シートに不良点の面積が表示される器具で、不明瞭な傷や異物の大きさを確認するツールとして多くの現場で採用されています。しかし「0.2mm²以内ならOKか?」「この形状はNGか?」といったように、目視判定の基準が曖昧なまま使われているのが実情です。使い方の教育や基準の共有が不完全であれば主観的な判断にならざるを得ず、属人化が強まって検査者ごとの合否の差が生じやすくなります。
また、ドットゲージは目で見るだけのツールであり、拡大機能などによる厳密な面積測定は困難です。その結果として「迷ったら全部直す」といった過剰品質志向に陥ると、「不安なものはとにかく再加工する」という文化が現場に根付いてしまい、不要なコストが膨れ上がります。
合否基準が明確化されていないと、取引先との認識の齟齬も生じやすくなります。社内では「ちょっと目立つキズはNG」としていても、取引先からは「この程度なら許容範囲」と評価されるケースも少なくありません。逆に、求められる品質に達していないためにクレームを受けたり、再塗装・再納品といった対応が必要になったりするケースもあります。こうした不良判定の課題を解決するには、明確な数値基準の導入や、検査環境・評価手順の標準化が不可欠です。
不良判定の「標準化」が進まない本当の理由
不良判定の「標準化」を進めるには、以下に挙げる5つの課題を解決する必要があります。
- メーカー・工程・面ごとに基準がバラバラ
塗装品の品質基準は、製造メーカーや工程、部品ごとに異なることが多く、数値基準の統一は難しいのが現状です。外観検査においてはJISやISOといった規格を参考にする場合もありますが、多くの現場では独自の見本や社内基準を用いており、その内容は経験による曖昧なものになりがちです。同じような不具合でも統一した判断ができず、ある部品ではNGなのに別のラインではOKといった検査結果のばらつきが発生します。また、一つの製品の中に複数の品質基準が含まれることがほとんどです。外面はAランクだけど内面は組み付けると見えなくなるのでCランク、といったケースです。
- 検査者のスキルに依存してしまう
目視検査(官能検査)は経験や感覚に依存するため、検査者によって判断結果が大きく異なります。新人と熟練者の間で合否の判断に差があり、また同じ検査者でもその日の体調や照明状況により結果が変わることがあります。個人の経験に頼った判定の常態化は、標準化を妨げる要因です。
- エビデンスが残らず、説明責任を果たせない
目視検査のみで判定すると、判定内容が記録に残らず、後から証明する根拠が不足します。限度見本を用いても、その使用履歴や判定記録が整備されていなければ、取引先から「なぜこの判定なのか」と質問された際に明確な資料で応答できません。エビデンス不足はクレーム対応時のリスクを高め、結果として不必要な再塗装や返品を招く事例が報告されています。
- 検査環境・設備が整備されていない
検査環境が整っていないことも一因です。照明・色温度・作業台の高さなど検査環境が統一されていないと、同じ塗装品でも見え方が変わり、合否判定のばらつきを誘発します。環境の不統一は基準への忠実な準拠を阻む原因となっており、現場によっては「照明が弱くて傷が見えにくい」「角度によってムラが誤判定される」といった声も挙がっています。
- マニュアル・見本が形骸化している
目視検査マニュアルや限度見本が存在しても、実際には形骸化して利用されていない現場が見られます。あるいは、作成したものの現場で徹底されておらず、検査者が独自の判断で作業しているケースもあります。マニュアルがあっても現場運用が伴っていなければ、標準化にはつながりません。
解決策:塗装不良の「数値化と記録」による客観的判断
塗装不良の標準化を進めるには「数値化と記録」による客観的な判断手法が効果的です。AIや画像処理技術を活用すれば、単なる目視から脱却し、面積や長さなどの定量的データに基づく検査が可能となります。以下に、解決のポイントをまとめました。
面積・長さをAIで自動測定
最新のAI外観検査システムでは、深層学習(ディープラーニング)を用いて塗装不良部分を自動でセグメンテーションし、面積や線長を正確に算出できます。カメラと照明による高速撮像とAI解析の組み合わせによって、従来は困難だった微細な傷や異物の検出が可能になります。たとえば、コニカミノルタの自動車塗装外観検査では、時系列照明パターン解析とDeep Learningの組み合わせで精度向上を実現しています。
撮影画像と数値を記録
自動検査の結果が撮影画像とともに不良箇所の面積・長さ・数などが数値で記録され、CSVやExcel形式のレポートを出力できる検査機器もあります。検査時の画像を自動保存することで、エビデンスとなる検査記録が残せます。
検査者によらない一貫した判断(属人性の低減)
AIによる判定は定義されたしきい値に基づいて行われるため、検査者の経験・疲労・照明状態・感覚に左右されず、一貫した判断が可能です。特に微細な欠陥や色ムラなど、ルールベースでは捉えにくい複雑なパターンも、深層学習を活用することで感覚的評価の数値化が実現します。
ドットゲージ検査作業の進化
ドットゲージでは目視による判定とツールの目盛りに頼っていたため曖昧さが残りましたが、自動計測システムではピクセルレベルで面積を計算します。測定精度が明示され、不良点の発生頻度や傾向も定量分析できます。
検査時の「数値化と記録」を徹底し、結果を「見える化」することで、客観的な判断に基づく材料ロスや再加工の判断の適正化が可能です。また、検査履歴は品質保証や顧客説明の際に信頼性のあるエビデンスとなり、検査の標準化と属人性の排除が実現します。
ハンディ型のデジタル検査装置とは?
ハンディ型のデジタル検査装置は、現場検査の新しいスタンダードとして注目されています。特に据え置き型と違って「迷う不良だけ測る」という合理的な運用が可能です。以下、ハンディ型のデジタル検査装置の特徴を紹介します。
撮影からレポート化まで一連の流れを効率化
ハンディ型装置では、検査者が気になる塗装箇所をその場で撮影し、AIによる自動判定で面積や長さなどの数値が即座に表示されます。測定データは装置内に自動保存され、USBや無線通信を使ってPCへの転送も可能です。検査データでレポート作成すれば、社内外の品質管理や顧客報告の根拠資料として有効に活用できます。
属人性の排除と判定基準の安定化
デジタルドットゲージの大きな強みは、検査者の経験や感覚に依存せず、明確な数値基準に基づいて誰でも一定の判定ができる点です。「直径0.2mm以下の異物ならOK」など、判定ルールを数値化して設定できるため、合否基準の曖昧さや「迷ったらすべて直す」といった過剰品質を防ぎ、適正な品質管理とコスト低減が両立できます。
現場を選ばないハンディタイプ
ハンディ型のデジタルドットゲージなら、現場内での持ち運びが可能です。検査場所や検査対象のサイズ・形状を問わず、吊るし状態のワークにも使用できます。据え置き型装置のようにスペースの制約がなく、特別な準備不要で検査業務を行えます。
データ記録とトレーサビリティの強化
AIによる自動判定だけでなく、測定ごとのデータを自動で記録・保存できるため、検査履歴の管理やトレーサビリティも万全です。測定データを残しておけば、品質トラブル時に証拠として活用できます。
多品種・少量生産やスポット検査にも最適
従来のインライン検査装置はパターン化された大量生産現場向けでしたが、デジタルドットゲージは多品種・少量生産の現場や、判断が難しい不良のスポット測定にも適用可能です。小規模工場での省人化・効率化が実現でき、現場運用負荷の低減に寄与します。
デジタルドットゲージは、客観的な判定基準と高い運用柔軟性、さらに省スペース・省人化・効率化といった現場目線のメリットを併せ持つ、新時代の検査装置といえるでしょう。
活用事例と効果
デジタルドットゲージの活用により、「受入検査での判定補助」「基準の標準化による教育工数削減」「顧客との品質すり合わせ」「過剰手直しの削減と納期短縮」といった、さまざまな成果が得られます。
受入検査での判定補助
デジタルドットゲージは、判断に迷いやすい塗装不良に対して特に有効です。撮影と数値測定を行うことで、検査者の判断を補助します。検査時の数値と画像をセットで残せるため、合否判断の根拠が明確になり、目視のみの検査に比べると判定のばらつきが大幅に減少します。
社内基準書への取り込み → 教育工数削減
判定結果がデータとして蓄積されることで、具体的な数値を社内基準書に反映でき、検査者教育に役立ちます。これにより、これまで熟練者が担っていた属人的な判断が標準化され、新人教育工数の削減と検査開始から安定稼働までのリードタイム短縮が実現されています。また、デジタル記録により教育記録もトレーサビリティとして残ります。
顧客との品質認識のすり合わせ
撮影画像と数値付きレポートを取引先に提示することで、品質認識のずれが減少します。従来は「目視で見た人によって違う」という主張しかできず、クレーム対応に時間がかかっていましたが、AI判定による数値根拠を提示することで、品質認識のすり合わせがスムーズになり、適正価格を実現することで信頼関係の構築に貢献しています。
過剰手直しの削減と納期短縮
AIによる数値判定と記録が有効活用できれば「再修正(出戻り)のゼロ化」が現実的になります。その結果、人的コスト・材料ロス・輸送費を大幅に削減し、検査時間も短縮されて納期遅延の抑制、全体の生産性向上にも大きく寄与します。
塗装不良は「測って、記録して、証明する」時代へ
塗装不良の管理は、従来の感覚や経験に頼った「目視判定」から、デジタル技術による「測定・記録・証明」へと移行しつつあります。AIや数値化によって、不良の見逃しを防ぐだけでなく「不良ではない」という証明も容易になり、現場の判断力と品質保証力の底上げにつながります。
ハンディ型のデジタルドットゲージは導入のハードルが低いながらも、属人性の排除や過剰手直しの抑制に効果的です。品質管理手法のアップデートを検討されているなら、デジタルドットゲージをぜひご活用ください。